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コラム「私のクールジャパン」

渡邉 賢一

日本のエクスペリエンスをデザインする

株式会社XPJP 代表取締役社長 エクスペリエンス・デザイナー
一般社団法人 元気ジャパン 代表理事 ソーシャル・デザイナー
渡邉 賢一

日本文化

深い緑に包まれた出羽三山。国宝の五重塔を横目に山伏の装束の先達と山に分け入る様々な国から訪れた人々。森全体に響き渡る法螺貝の音色と共に、「うけたもうっ」と太く腹の底から起ち上がるひとこと。シーンと静まり返る山道。鳥の声や木の葉が風でそよぐ音を体で感じながら一行は自然と一体になり、羽黒山山頂の出羽神社に赴く。彼らの目的は、出羽三山に古くから伝わる精進料理の源流と可能性を学び、世界のガストロノミーの進化について考えること。イタリアのブラに本校を構えるイタリア食科学大学では、ユネスコ食文化創造都市として認定された山形県鶴岡市を食のフィールド・ミュージアムとしてとらえ、日本独自の多様な食文化を学ぶためのプログラムを実施しています。

山伏料理ともいわれる出羽三山の精進料理には、地産地消の考え方のもと二十四節気七十二候毎の多種多様な料理が存在し、調理・加工・保存の伝承技術のみならず、万物への命を頂く感謝の精神が今もしっかりと込められています。世界中でおきているヘルシーシフト、テロワール、ビーガンなどのオーガニックなムーブメントを背景に、山伏料理への再評価が国境を越えて進展しています。このように日本各地に残る郷土文化は、海外目線で見直され、新たな体験価値を注ぎ込まれつつあります。拡大するインバウンドの波に後押しされ、今後ますます日本の地域資源はエクスペリエンス・デザインされてゆく期待感があります。

『The Dragon and the Dazzle(龍と閃光)』というイタリアで発表された論文があります。そこでは「ジャパナイズド・ウェスタン(Japanized Western)」という概念が紹介されています。つまり“西洋の日本化”。“日本の西洋化”とは真逆の現象について研究をした論文として注目されています。その中に、日本文化を体験することによって、海外の人々が一体どんなインパクトを受け、そして吸収してきたのかという調査があります。調査結果では「多種多様な価値観の共存(82.9%)」、「社会における精神性の高さ(56.3%)」、「新しいモダンの発見(51.3%)」など、日本社会そのものに内包されている通念や、インビジブルな体験価値こそが、日本文化の特質であることが浮き彫りになりました。
日本は現代も変わらず古来より続く八百万の小さなコミュニティー同士の地域集合体です。38万km2の国土の其々の地域ごとにローカルで独自の文化資源が存在し、そこに暮らす人々の固有の伝統的価値観が定着しています。生活様式、自然感、歴史、食、服飾、祭り、言語、地政学などその多様性は世界に類を見ないほど豊かです。こうした価値をグローバルな視点で再解釈し、エクスペリエンス資源として交流モデル化してゆくことこそが、クールジャパンを活かした地方創生の意義です。

NOBU(松久信幸)

アラン・デュカス

かつて、アラン・デュカス氏と連携し、エッフェル塔を舞台に日本の食文化を体験するプログラムをプロデュースしたことがあります。食器、食材、様式美、技術など様々なテーマから和のエッセンスを紡ぎ出し、フランスのガストロノミーのプロトコルを尊重した上で、コースとしてまとめました。日本文化の押し付けではなく、海外の流儀に則りながら柔軟に伝統を革新させることによって、文化の包含力を高めてゆく醍醐味を味わいました。
また別のプロジェクトでは、世界44店舗を展開するNOBU(松久信幸)氏と連携し、各国のニーズに合わせたオリジナル有田焼の開発に携わりました。有田の技術と伝統を継承すると共に、しなやかな変革を大切することで、カリフォルニア・ロール専用の寿司スタンド磁器など、海外からのリクエストに合わせた新しい食器の数々が生み出され、実際に海外で使われ始めています。マーケット・イン型のものづくりをすることで、日本の活躍の場はまだまだ広がることを実感しました。

いま私は外務省が新設するジャパン・ハウスのロサンゼルス事業における地方創生・官民連携戦略アドバイザーとして深く当事業に関わっています。日本を伝え、世界に親日派・知日派を育成するための取り組みとして、米国(ハリウッド)、英国(ロンドン)、ブラジル(サンパウロ)の3カ国に日本の出島が出現します。ジャパン・ハウスでは展示やライブラリーのみならず、本格的な日本食文化が楽しめるレストラン機能や、日本のクラフトやアートなどの物販機能なども充実させる計画を推進しており、多様な日本のコンテクストを体感できるスペースとして生み出されます。各界のクリエイター同士が力を合わせて事業プロデュースをしてゆく体制と連動し、日々、地方行政や地域企業、デザイナーの方々と共に様々な地域案件に向き合いながら、具体的なプロジェクト開発を進めています。インバウンドや輸出促進などを通じた地域資源の海外展開戦略づくりを強化する上で常に意識をしているのが、日本のクリエイティビティーの可能性を信じることです。

そもそも日本には世界の創業200年以上の老舗企業が3146社(全体5586社、ドイツ837社、オランダ222社、フランス196社、韓国2社、中国5社。)存在し、全世界の長寿企業の56.3%が存在する超老舗大国です。創業100年以上の日本企業は2万1666社、創業1000年以上の企業は7社、世界最古企業3社はすべて日本企業です(帝国データバンク)。おもしろいことに企業は長生きすると社是が似通ってくるといわれています。「変化に対応する」、「本業回帰」、「現場の判断」、「和を尊ぶ」などの社是が長寿の秘訣のようです。まさに「伝統とクリエイティビティーの融合」にこそ日本型経営が大切にしてきたマーケティング・オブ・デプス(深さの経済学)の本質があります。資本主義社会では長くマーケティング・オブ・スケール(拡大の経済学)が重視されてきました。今こそ世界に対して日本流の創造性の高い新産業開発の可能性を示してゆく時代であると思います。こうした力の源が溢れる地域文化や地域経済を新しい視点でデザインし直し、変化をおそれず再起動のスイッチを押し続けることで、日本の質的な進化を起こしたいと考えています。

出羽三山

クールジャパン

PROFILE

渡邉賢一(Kenichi Watanabe)

株式会社XPJP 代表取締役社長 エクスペリエンス・デザイナー
一般社団法人 元気ジャパン 代表理事 ソーシャル・デザイナー

栃木県栃木市出身。1995年 学習院大学卒。カリフォルニア大学サンディエゴ校、ワシントン大学BUSIP留学。国際電信電話(現KDDI)、朝日新聞社、内閣官房 地域活性化統合事務局に勤務後、2010年に地域プロデュース専門法人(社)元気ジャパンを設立し、2015年にエクスペリエンス・デザイン法人(株)XPJPを設立。内閣官房クールジャパン官民連携プラットフォーム有識者委員。外務省ジャパン・ハウス・ロサンゼルス 地方創生・官民連携戦略アドバイザー、経済産業省クールジャパン事業プロデューサー(2011,12,13,14年)。慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所 研究員。日本ガストロノミー学会プロデューサー。