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日本の教育システムこそがクールジャパン

KADOKAWA Contents Academy株式会社

PROLOGUE

日本のアニメやマンガが大好き!―そう言う若者は世界中にいるが、彼らがその制作を学べる機会は多くはない。そんな若者たちをクリエイターとして育成し、彼らが日本や世界で活躍できるチャンスを作り、さらにはそれを日本のコンテンツ業界の国際化と発展につなげようとしている学校がある。KADOKAWA Contents Academyだ。クールジャパン機構はこの学校の運営事業に出資した。教育分野への出資は初めてである。同校は2014年9月に開校した台湾を皮切りに、シンガポール、タイと展開国を広げている。その立ち上げから推進しているメンバーに話を聞いた。

(※掲載されている情報は取材時点(2016年7月)。敬称略)


PROFILE

KADOKAWA Contents Academy株式会社
代表取締役兼CEO
古賀 鉄也Tetsuya Koga

古賀 鉄也

1969年生まれ。大学卒業後、総合商社、総合人材サービス会社を経て、テンプスタッフ・クリエイティブを設立。2009〜2012年までクリエイター大学や専門学校を運営するデジタルハリウッドの代表取締役兼CEO。2010年からプロサッカークラブ、東京ヴェルディ1969の取締役。2013年KADOKAWA Contents Academy株式会社を設立して社長兼CEOに就任。

台灣角川國際動漫股份有限公司
総経理/スクール事業部長
竹内 太郎Taro Takeuchi

竹内 太郎

1969年生まれ。大学卒業後、証券会社を経て、人材ビジネス、IoTやコンテンツ産業に特化した学校事業に従事。学校運営では、法人向け教育コンサルティング、新規教育事業立ち上げ、大学事務局長などを経て、2013年KADOKAWA Contents Academy株式会社に入社。2014年台湾に駐在し、一号校『角川国際動漫教育』を台北市に設立。

KADOKAWA Contents Academy株式会社
スクール事業部 スクール事業統括室 室長
青木 雅史Masashi Aoki

青木 雅史

1974年生まれ。大学卒業後、クリエイターの人材育成業に従事し、スクール・大学運営、キャリア支援、商品開発などを手がける。業界での経験は15年以上。2014年にKADOKAWA Contents Academyに入社し、海外拠点校のシステム構築やカリキュラム開発に携わる。2016年からは海外の学生を対象とした日本への留学・就業支援体制の構築も推進。

chapter1 後押ししたのは各国の若者に求められているという実感
最初に台湾校が開校したのは、KADOKAWA Contents Academyの立ち上げが決まってわずか一年半後。外資企業が教育事業を展開するのはどの国でも困難を伴い、教育ライセンスの取得だけでも2年以上はかかるものだが、立ち上げメンバーはこのスピードでやり遂げた。後押ししたのは各国の若者が待ち望んでいたという実感。各国政府もそれを肌で感じとったのか、非常に協力的だったと古賀氏は振り返る。
古賀
“スピード感”は当初から意識して行動していましたが、今思えばかなり無謀なスケジュールでした。そんな中でも各国の若者の期待はいつも感じていましたね。今、色々な国をまわっていますが、インドネシア、ベトナム、イスラエル、サウジアラビアなどの若者や政府からも「いつ学校を創るんだ」という問い合わせを直接頂いています。待っていてくれている若者が沢山いるんです。
竹内
彼らはやはり「プロになりたい」という思いが強く、夢は日本でのデビューです。台湾校ではマンガ、キャラクターデザイン、カードゲームイラスト、ライトノベル、3DCGのコースを開講していますが、どのコースの生徒も日本のコンテンツが好きで、本気で自分の作品を創りたいと思ってきた人たちなので、私たちが想像している以上に技術力は高いですね。
青木
例えばマンガコースなら、まずはマンガを描くための基本技術と、必要な道具の使い方などをじっくり教え、実際に作品を創ってもらいます。そうするとマンガは描けてもストーリーや表現が面白くないということが出てきますので、そこはプロの講師が直接指導していきます。例えば“萌え”。これは日本独特の表現ですが、“萌え”の要素を加えた方がよければその表現の仕方を教えます。色使いはこうした方が良いとか、もっと目を大きくしたら良いとか。そういうことを繰り返し添削指導していくんです。
古賀
好かれる絵は時代によって変わりますから、マニュアルは存在しません。例えば“萌え系”や“美少女系”なら、目の大きさや太ももの太さなどの流行が微妙に変わるんです。講師はその時代に求められる描き方を教えないといけないので、現場の一線で活躍している人でなくてはいけません。ですから講師選びも非常に重要になってきます。
台湾校の校舎内

台湾校の校舎内

タイ校のオープニングセレモニーの様子(中央左から古賀社長、KADOKAWA 角川会長)

タイ校のオープニングセレモニーの様子
(中央左から古賀社長、KADOKAWA 角川会長)

台湾校で学ぶ生徒の様子

台湾校で学ぶ生徒の様子


chapter2 大事なのは忍耐力がある人を育てられるかどうか
元々日本でデジタルコンテンツ制作の大学を経営していた3人。その経験を活かして何か新しいことができないかと考え、今から3年前、東南アジアを中心に世界各国で学校を創るという企画をKADOKAWAにぶつけた。すると実はKADOKAWAも海外でのクリエイターの育成を考えていることが分かり、話はトントン拍子に進んだという。しかし、海外で日本流の教育を実践するのに伴う苦労は並大抵のものではない。この事業を推進する3人を支えるものは何だろうか。

台湾校生徒による卒業制作の作品(© 時七/© 黒かぎ/© KADOKAWA Contents Academy)

竹内
私たちの仕事は、自分たちが作った教育サービスを、最終消費者である生徒たちが受けている現場を目の当たりにすることができる。それって案外、貴重なことだと思うんです。食べ物を作っても、それを消費者が買って食べるところまで見届けることはできない。言葉の壁を超えて、先生たちが喜んで教え、生徒たち一人ひとりが実際に上達していく様子を見られるのは、それだけでもう、本当に嬉しいものです。
青木
卒業生が実際に日本でデビューしたなどと聞くと、さらに嬉しいですよね。ただ、僕たちの仕事は「教育」である一方で、生徒に満足して頂かなくてはならない「サービス業」でもある。そのバランスをどう取るかでいつも悩みます。例えば、有名な日本人講師が来れば、生徒たちはその人から技術を学ぶだけではなく、「実際に描いているところを見たい」と思う。限られた時間の中でそうした要望にどう対応していくかですね。
古賀
「サービス業」である一方で、この世界の現実を生徒たちに理解してもらわないといけない。この世界で一流になるには相当な我慢をして修行しなくてはならないんです。海外の生徒たちは、「お金を払っているのだから卒業すればすぐデビューできるだろう」と考えがちです。私は日本の教育システム、教育クオリティこそクールジャパンと思っていますが、一番大事なのはまず忍耐力がある人を育てられるかどうか。これはどんなサービス業でも海外展開するうえで必ず共通していることです。クールジャパン戦略の肝だと思います。
竹内
実際、生徒たちも最初は合理的に考えていても、卒業する頃になると、技術だけではなく精神的にも成長し、卒業式では先生や学校のスタッフに心から感謝してくれます。メッセージビデオを作って先生にプレゼントしたり、先生と泣きながら「今度はプロとして一緒に仕事しようね」と話したり。そういうのを見ていると、本当にやってよかったなと思いますよね。
古賀
その卒業生がインフルエンサーになり、「日本の学校で教わって良かったよ」とか「日本からこんな先生が来たよ」と周囲に伝えてくれることで、今度はその周囲の人たちが日本コンテンツに興味を持ち、ファンになってくれる。そういう循環がこの学校にはできると思いますね。
タイ校の教室

タイ校の教室

作品作りに熱中する生徒

作品作りに熱中する生徒


chapter3 世界中に認められる学校としてのブランドに
「各国のコンテンツ産業が発展すること」。それがこの事業のゴールだと古賀氏は言う。各国のマーケットが広がれば、日本のコンテンツが海外へ行くチャンスが広がる。そして、日本のコンテンツを深く理解したクリエイターが世界に増えれば、彼らは日本のコンテンツ産業にとって強力な味方となる。最終的に日本のコンテンツ産業の発展につながるこの事業を通して、3人はそれぞれが実現したい夢がある。最後にその純粋な想いを語ってもらった。
竹内
卒業生が書いたライトノベルが売れて、それを別の卒業生がコミカライズして、それをまた別の卒業生がアニメに描いて、声優は声優コースの卒業生が担当して・・・、そんな風に創られた作品が世界中で売れたら、これ以上なく嬉しいですね。
青木
僕が一番思っているのは、より多くの生徒たちが成功に繋がるようにしないといけないということ。卒業後の仕事のマッチングや、デビューをサポートするような仕組みをもっと充実化させていって、一人でも多くの学生がグローバルな仕事に就けるような流れを作っていきたいなと思っています。
古賀
まず一つは、私たちの学校で育った各国の生徒が集まって、アジアで売れる作品を一緒に企画・制作し、アジア全域で販売するのを見てみたいですね。もう一つは、将来的に各国からの寄付金を集めて、経済的に恵まれていない家庭の若者にもこの分野でのチャンスを与えられるような学校にしたい。現状はやはり生徒は中間所得者層以上が多く、本当にマンガが描きたいけれども、お金が無いために親に許して貰えない若者たちも沢山います。今後10年くらいかけて学校としてのブランドをしっかり築き、皆に応援してもらえるようにならなくてはと思っています。
ロゴ

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